「物忘れ」は
早期段階での見極めが大切

物忘れイメージ

年齢を経るにつれて、多かれ少なかれ「物忘れ」が起こりやすくなります。以前は普通に行うことができたのに、加齢に伴って認知機能が低下してしまい、現在の年月日が分からなくなった、通い慣れているはずの道が分からなくなった、大切な約束を忘れてしまった、同じことを何度も確認するようになった、などの症状が起こります。そのため、家族や友人などとの人間関係に影響が出てしまうこともあります。

こうした物忘れには、単なる加齢によって起こる「良性健忘」、日常生活への影響はほとんどない「軽度認知障害」、さらには「認知症の初期段階」のケースがあります。こうしたタイプを早期の段階で見極めることが大切となりますので、物忘れが増えてきたときはお早めに当院を受診ください。

このような症状にお気づきの方はご相談を
  • その日に食事をしたのかどうか思い出せない
  • その日に外出したのかどうか記憶にない
  • 財布やクレジットカードなど、大切なものを頻繁に失くすようになった
  • 何度も同じことを言ったり、聞いたりする
  • 慣れている場所なのに、道に迷うことがある
  • 自分が今いる場所が分からなくなることがある
  • 薬の管理ができなくなった
  • 以前は好きだったことや、趣味に対する興味が薄れた
  • あてもなく辺りを徘徊し、元の場所(自宅など)に戻れなくなる
  • 鍋を焦がしたり、水道を閉め忘れたりすることが目立つ
  • 突然、怒り出したりする
  • 財布を盗まれたと言って騒ぐことがある など

認知症について

認知症は、一度正常に達した認知機能が、何らかの原因によって低下してしまい、日常生活に支障をきたすようになる病気です。脳の細胞が死んでしまったり、その働きが悪くなったりするので、認知機能に問題が生じます。最近の出来事を忘れてしまう、今いる場所が分からない、知人の名前や顔を思い出せない、財布などをどこに置いたか分からない、などの症状がみられたときは、認知症の可能性があります。

認知症の種類

認知症にはたくさんの種類がありますが、アルツハイマー型認知症、脳血管型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症が代表的です。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、脳に特殊なたんぱく質が蓄積することにより、神経細胞が壊れて減ってしまうタイプであり、神経細胞が死んでしまうことによって脳という臓器そのものも萎縮していき、脳の指令を受けている身体機能も徐々に失われていきます。アルツハイマー型は認知症のなかでも一番多いタイプとされています。
また、男性よりも女性に多く見受けられます。

アルツハイマー病新薬「レケンビ(レカネマブ)」

厚生労働省が2023年8月、エーザイと米バイオジェンが開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」を承認しました。米国商品名「LEQEMBI(レケンビ)」はアルツハイマー病の進行を緩やかにする効果を証明した薬として国内初となり、認知症治療に向けての選択肢も広がります。

【注意すべき副作用】
アミロイドβ凝集体に対するモノクローナル抗体は浮腫を伴うARIA(ARIA-E)およびヘモジデリン沈着を伴うARIA(ARIA-H)として特徴づけられるアミロイド関連画像異常(ARIA)を引き起こす可能性がある。ARIAの発現率と発現タイミングは治療法によって異なる。
レケンビは、ARIA-EおよびARIA-Hを引き起こす可能性がある。ARIA-Eは脳浮腫や脳胞液貯留として、ARIA-Hは微小出血や脳表ヘモジデリン沈着症としてMRIで観察される。ARIAは、アルツハイマー病患者で自然に発現することがある。アミロイドβ凝集体に対するモノクローナル抗体に関連したARIA-Hは、一般にARIA-Eの発現に伴って生じる。ARIA-HとARIA-Eは一緒に発現する可能性がある。
ARIAは通常、治療の初期に発現し、また無症候性であるが、まれに痙攣、てんかん重積状態など、生命を脅かす重篤な事象が発生することがある。ARIAに関連する症状として、頭痛、錯乱、視覚障害、めまい、吐き気、歩行障害などが報告されている。また、局所的な神経障害が生じることもある。ARIAに関連する症状は、通常、時間の経過とともに消失する。
Front Neurol. 2015 Sep 25;6:207.

脳血管型認知症

脳血管型認知症は、主に脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの病気によって引き起こされます。脳の血管が詰まったり出血したりすると、脳細胞に酸素が十分にいきわたらなくなるので、神経細胞が死んでしまい、認知機能に問題が生じるのです。このタイプの場合、障害部位のみに機能低下がみられるため、まだら認知症、一部の運動障害、感覚障害などの症状がみられます。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、神経細胞にできる特殊なたんぱく質が大脳皮質や脳幹に溜まってしまうタイプの認知症です。レビー小体が多く集まっている場所では情報をうまく伝えられなくなるので、見えないものが見えたり、歩行などの動作が障害されたり、睡眠中の異常行動がみられたりします。

前頭側頭型認知症

頭の前部、前頭葉と横部、側頭葉が萎縮することによって起こるタイプの認知症です。若い人にも発症が見られます。

治療について

治療に関していうと、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の場合は、お薬によって症状を抑えたり、病気の進行を遅らせたりします。脳血管性認知症では、原因となっている病気(脳梗塞や脳出血など)の治療を優先しますが、必要に応じて症状を抑えるお薬を使用します。なお、患者さまの認知機能や生活能力の低下を抑えるため、認知リハビリテーションや運動療法などの非薬物療法を行うこともあります。